来月9日はオーケストラ・アンサンブル金沢、そして指揮者の高関氏との久しぶりの共演があり、今から楽しみにしています。プログラムはこれも久しぶりにバーンスタイン作「セレナード」。これはレナード・バーンスタインの書いた唯一のヴァイオリン協奏曲です。
多才な人で、コンサート用の音楽もたくさん書いていますが、ミュージカルの不朽の名作「ウェストサイド・ストーリー」の音楽を書いたのもバーンスタインです。実は今年の1月、極寒のニューヨークで、ブロードウェイ再演中の「ウェストサイド・ストーリー」を観にいきました。特徴的で魅力的なメロディ、思わず身体が動いてしまうような変拍子で乗りのよいリズム、ミュージカル音楽の単純さの中にふっと見せる魅惑的なハーモニーの変化など、この作品は今でも十分に「新しく」て「衝撃的」!
ブロードウェイのミュージカルは「オペラ座の怪人」「蜘蛛女のキス」「美女と野獣」「シカゴ」「ビリー・エリオット」など私も結構観ていますが、やはり音楽についてはどれもいま一つ単純さが耳について楽しめない、というのが本音です。「ウェストサイド」は舞台上のコリオグラフィーも楽しめましたが、さすがバーンスタイン、何よりも音楽に深い満足を覚え、これを超えるミュージカルはこれからも存在しないのではないか、と思いました。
ヴァイオリン協奏曲「セレナード」は、コンサート用のいわゆる「シリアス」な作品ですから、もう少し作曲家の手加減しない真剣さと複雑さを持っていますが、官能的な旋律美、対位法的なテクスチャーを使った変容、切れ味の良い変拍子のリズム、ジャズの影響なども見られ、バーンスタインの魅力を存分に楽しめる作品です。プラトンの「饗宴」を再読したことをインスピレーションに、ストーリー性に囚われることなく、「愛」というものの本質について、音楽で自由に雄弁に表現しています。全5楽章はそれぞれが有機的に結びつき、バーンスタインの奥行きの深い音楽世界を余すところなく味わえる作品と言えるでしょう。
英国BBCのラジオ「ディスカヴァリング・ミュージック」というシリーズで2005年にこの曲が取上げられていて、その模様をBBCのウェブサイトで聞くことが出来ます。http://www.bbc.co.uk/radio3/discoveringmusic/pip/fxf4x/
このシリーズは専門的になりすぎず、一般向けの番組のようですが、実演を掻い摘んで聴かせながら、音楽の構造的な側面を手際よく解説しています。番組の最後に解説者が述べる「バーンスタインのセレナードは演奏される機会は少ないが、素晴らしい名曲である。」という意見に私も大賛成です。英語ですが、興味のある方は上記サイトで是非聴いてみてください。
どちらかというと日本の同様の一般向けクラシック啓蒙番組は興味本位のトピックに始終してしまう傾向があるように感じますが、BBCのようにもっと音楽の構造的な部分を大事に解説してほしいと思います。音楽は形が見えないけれど、その中にしっかりとした構造が認識できてこそ、その曲の持つ本質的な意味を捉えることができるのです。
ところで、このようなシリーズをいつでもインターネットから無料でアクセスできるというのも、さすが大英博物館を持つ英国ですね。