6月16日 ストラド&デルジェス コンサート

バルトロメオ・ジュゼッペ・アントニオ・ガルネリ(1698-1744)のヴァイオリンにはラベルにIHSのマークが印されていることから、通称「デルジェス」と呼ばれています。IHSとはJesusのギリシャ語の綴り、IHΣOΥΣの最初の3文字。またはラテン語で"Iesus Hominum Salvator"(救世主)の頭の3文字。アントニオ・ストラディヴァリ(1644-1737)と並び賞される名器を残していますが、長生きをして多産だったストラディヴァリに比べて「デルジェス」は音色も対照的で数も少ないため、より高い評価をされる場合が多くあります。

昨日は東京の紀尾井ホールにて、日本音楽財団の主催でストラディヴァリと「デルジェス」の2台のヴァイオリンを使ったコンサートが催されました。ストラディヴァリはドイツ人の有希マヌエラ・ヤンケさんが演奏し、私は「デルジェス」を担当しましたが、6月8日に1736年製のデルジェス「ムンツ」と数年ぶりに再会、親密になれる時間はまだ一週間弱という状況でのコンサートでしたから、正直に言って楽器の持つ可能性の40%くらいしか昨日はお見せできなかったかもしれません。

楽器に再会して最初の2日程は、練習しながら新しい可能性にワクワクして過ごしましたが、それも落ち着くと3日目位から真剣なコミュニケーションが始まりました。人間関係の構築と同じプロセスで、一進一退を繰り返し、喜ぶときもあればフラストレーションに苦しむ時期も過ごしながら、段々に上手くコミュニケーションを取れるようになっていきます。今はまだ最初の段階ですが、これからがとても楽しみです。

 

私が10年以上前に初めて1709年製のストラディヴァリの「エングルマン」を音楽財団からお借りしたときは、ストラディヴァリ特有の艶のある音色と、楽器の完璧な健康状態(長くコレクションとして大切に保管されていたため、ほとんど消耗のない新作のような状態でした!)から来るところのパワーの強さに魅了されました。それまでストラドを弾いた経験がほとんどなかった時期でしたから、音がある程度バランスよく出せるようになると、その音色の美しい艶とパワーだけで喜び弾いていた時期もありました。その後何台かの名器を演奏させていただく期間を経て学んだこと、それはどんな名器であっても肝心なのはやはり自分の出したい音色やニュアンスをしっかりと頭に描いてヴァイオリンと向き合うこと。勿論素晴らしい楽器は何もしていなくてもある程度の響きの美しさを作ってくれますが、それ以上はやはり演奏家が生み出さなければなりません。楽器が提供してくれる新しい可能性に甘えることなく、それを超えるようにさらに自分の要求を高く伸ばしていくこと。今回もそのような気持ちで出来るところまで挑戦していきたいと思っています。

演奏後のお食事会で撮ったスナップを添付します。日本音楽財団理事長の塩見和子ご夫妻、有希マヌエラ・ヤンケさん、共演したピアニストの坂野伊都子さん、そして私です。有希マヌエラさんは、お母様が日本人とのことで日本語も上手に話し、愛らしい人柄の女性でした。坂野さんとは19日にも神戸で共演します。


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このページは、Reiko Watanabeが2010年6月17日 00:29に書いたブログ記事です。

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