秋田中心市街から車で南へ一時間ほどの所、唐松城跡の丘の上に立派な能楽堂があり、毎年大仙市の主催で薪能の公演が催されます。大仙市は6月の薪能に国際教養大学の留学生や日本人学生、教職員などの数十名を毎年招待してくださっていて、私も今回で4回目の常連です。
小高くなった城跡に建てられた能楽堂からの眺めは美しく、正に日本の田舎の原風景。平地の水田の新緑の間を縫って、2両編成の電車が一時間に数本ゆったりと規則的な音を立てながら走り抜け、周囲には低い山々が穏やかな緑の稜線を造っています。幽玄の能世界とこのなつかしい風景が相まって、タイムスリップしたような不思議な感覚に陥ります。
今回の演目は、能「花月」、狂言「附子」、能「遊行柳」。
あいにくの大降りの雨で、合羽を着込んだままではプログラムも読むこともままならず、この分野の知識がない私は筋書きも分からずに戸惑いましたが、始まってしまうとその研ぎ澄まされた美に圧倒され、深く引き込まれていきました。すべての無駄をそぎ落とし、ミニマムな動きと音楽で豊かな色彩と情感を創り出す舞台芸術として、「能」は究極の高みに存在するのではないでしょうか?「祈り」のような感情を呼び起こし、深く人生の無常を省みる気持ちにさせるという意味でも、バッハなどの音楽が体現するものに共通する精神性を感じました。
打って変わって狂言には、音楽はありませんが、筋書きは現代の感覚でも十分に面白く、擬態語や擬音語が多くて漫画のよう。したがって意味も楽に理解できるので、楽しく笑いました。最後の演目「遊行柳」では雨も上がり、不規則に揺れる薪の明かりに照らされて、遠くの山々の次第に闇にかすんでいく稜線を眺めながら、ゆったりとした心で素晴らしい時間を過ごしました。
開演前に雨の合間を縫って急いで撮った能舞台の写真を添付します。
唐松能楽殿での次の公演は8月29日です。ご都合がつく方は、どうぞ一度この秋田の美しい景色と能を楽しみにいらしてください。参考までに、大仙市の能楽堂のサイトもご紹介しておきます。
http://www.city.daisen.akita.jp/site/gyousei/org_info/kyowa/nohgakuden/index.html