2012年5月アーカイブ

2012年5月13日 メトのシャンデリア

 昨晩はニューヨークのメトロポリタン・オペラの今シーズン最後の公演に行って来ました。演目はベンジャミン・ブリテン(1913-76)の「ビリー・バッド」。体調があまり良くない状態で、夜9時開演の3時間近いオペラを聴きに行くには、かなりの覚悟が必要です。薬で頭痛を抑えながら、それでも第一幕の一時間半の間に「二幕は聴かずに帰ろうか・・」と何度思ったことか。オペラは作曲家にとっても長丁場。必ず最終幕に渾身のアリアやクライマックスを入れてくるはずだから、それを逃したら何の意味もないと思い、頑張って最後まで聴きました。やはり聴いておいて正解でした。メルヴィルの同名の小説により、若くてハンサムで善良なビリーが海軍に入り、そこで彼に対する上官の悪意に巻き込まれ、その上官を殴り殺してしまい、最後は絞首刑になるというストーリー。オペラの最後の場面は、歳をとった艦長がビリーの命を救えなかった(救わなかった)ことを後悔しながら当時を振り返り、ビリーが死刑になる直前に艦長を祝福したことに心の救いを見出す、音が消え、幕が静かに降りる、というもの。その辺りの心理的な葛藤の描写が全編を通して難しく、ブリテンは随分悩んだのではないかと推察します。1951年に4幕のオペラとしてロンドンのコヴェント・ガーデンで初演、1960年には2幕に改訂しています。メルヴィルの原作も、是非読んでみようと思います。

 ところで自分で何気なく書いていて気づいたのですが、私はオペラを「聴きに」行くみたいですね。よくコンサートを「見に行く」という方がいますが、私はオペラでも「見る」に比べて「聴く」が中心になるようです。


IMG_0174.JPGのサムネール画像














(写真1)終演後のカーテンコール


IMG_0176.JPG (写真2)ロビーのシャンデリア

 ところで、2011年2月のブログで「福岡のアクロスとニューヨークのメトのシャンデリアが良く似ているが、同じメーカーの作品と聞いて納得」と書きました。今回さらに調べてみたところ、それがウィーンのJ.&L.Lobmeyr(ロブマイヤー)という工房であり、福岡のアクロスやロシアのクレムリン宮殿のホール、クウェイトの宮殿、さらにはウィーン国立歌劇場やザルツブルグの劇場もこの工房の作ったシャンデリアです。

 調べている中で、2008年の夏にメトがシャンデリアのすべて(ロビーに11個、劇場内に21個)を取り外し、ウィーンの工房に送って、クリスタルなどの部品をすべて新しいものに取り換えるという大掛かりなプロジェクトについての当時の記事をニューヨーク・タイムスに見つけました。
http://www.nytimes.com/2008/07/18/nyregion/18chandelier.html?_r=1

 記事によると、2008年夏、これらのシャンデリア(最大のものは幅が6メートル近い)が取り付けられて以来初めて解体されて15の箱に丁寧に梱包され、ケネディー空港から3機の飛行機に分乗してウィーンに送られる。10週間に渡って、49000個のスワロフスキーのクリスタルが新品に取り換えられ、木やメタルでできた球体(スプートニクと呼ばれている)や放射線を模った部分がオーバーホールされる。一億円以上かかるこの大プロジェクト、スワロフスキー社からの寄付で可能になり、2008年9月22日のメトの125年目のシーズンのオープニングに合わせて進められる。もともとこのシャンデリアはオーストリア政府から戦後の復興に対するアメリカの協力に感謝し、1966年のメトのリンカーンセンターへの移転時に献呈されたもの。これほどの大掛かりではないけれど、毎夏これらのシャンデリアはきれいにクリーニングされる。


長い記事で、その他色々詳しく書いてあります。例えば今では工房の伝説になっている逸話;建築家のハリソンからビッグバン理論の本を贈られた当時の工房主は、この理論にインスピレーションを得て、宇宙が出来上がっていく様子をメトのガラスとメタルのシャンデリアで表現した、というもの。芸術作品の創造過程の裏話はどれも面白いですね。

J.&L.Lobmeyr社の歴史が日本語で詳しく書いてあるサイトを見つけましたので、参考までに。http://bamboo-bar2.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/1822_713e.html


2012年5月6日 カナダのケベック州

 エアラインのマイレッジも貯まっているし、少し息抜きもしたかったので、5月の初頭からカナダへ弾丸一人旅を決行しました。仕事抜きで一人旅をするのは久しぶりなので、少々緊張ぎみでしたが、新しい刺激をたくさん得てニューヨークへ帰ってきました。楽器を持たない旅なので、なるべく公共の交通機関を利用し、観光も身体に無理のない範囲でなるべく歩くこと。これが今回の旅のモットーで、何だか学生時代に戻ったような気分を味わいました。

 最初はケベック州のモントリオール。カナダ第2の大都市ですが、ニューヨークから降り立つと、小さくてのんびりしたフランス情緒の美しい街です。ほぼ1日しか滞在しなかったのですが、ノートルダム大聖堂の青色光を放つ見事な祭壇と、ケント・ナガノ指揮モントリオール響(OSM)のコンサートと、フランス料理店でのリーズナブルで美味しいランチが最も印象に残りました。

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(写真1)美しいノートルダムの祭壇



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(写真2)コンサート始まる前に客席から


 OSMのコンサートホールは大き過ぎず、まろやかな艶のある音響が素晴らしいホールです。丁度ステージ上の、指揮者やソリストに斜め後ろから臨むような席で、モーツァルトのニ短調のピアノ協奏曲ではネルソン・フレイレ(Nelson Freire)氏の繊細で見事なタッチ、ドヴォルザークの「新世界」ではナガノ氏の微妙なニュアンスの指示やそれに答える管楽器の呼吸、それこそヴァイオリン・パート譜まで覗くことができるほど。久しぶりに、心から堪能できたコンサートでした。

 翌日はその歴史的街並みがユネスコの世界遺産にもなっているケベックの州都ケベック・シティ。「モントリオールまで行くなら是非寄ってみたら」と友人に勧められて行ったのですが、それまでの疲労+バスで3時間移動の疲れ、それに天気も悪かったために、残念ながら期待していたほどの印象は残りませんでした。その翌日は天気も快晴、朝ケベック・シティを出発する前にノートルダム大聖堂に行き、丁度朝のミサの最中でしたが、黄金に輝く祭壇を眺めながら、短い恵まれた時間を過ごしました。

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(写真3)ケベック・シティのノートルダム


 今回の滞在中、ケベック州では授業料の値上げに対する学生のデモが大きなニュースになっていました。私もモントリオール観光中、デモの列を遠くから見かけました。国際教養大学も確かマギル大学やラヴァル大学と提携しているので、日本からの学生もきっと在学しているはずです。現地の方が書いたブログを発見しましたので参考までに。http://www.qlseeker.ca/qlsblog/?p=181



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