10月21日 私の東北「考」

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台北から18日に帰ってきました。

12日の行きの飛行機の中で浅田次郎氏の機内誌エッセイを読んで考え始めた私の「東北」考、周りの意見を聞いたりしながら色々考えをめぐらせ、自分なりの結論が何とかまとまりました。

 

まず浅田氏のエッセイの内容を掻い摘んで書かなければ、皆様に話が通じませんね。

内容は幾つかのエピソードで構成されています。温泉が大好きな浅田さんが、雑誌の取材のために上州のある温泉をカメラマンと編集者と3人で訪ね、共同浴場でお湯に足を入れた途端、3人続けざまにコケ、一人は腕を折ってしまったことが後で判明するほどのハデさで転んでしまった。それを見ていた地元の男性は、「お騒がせして、すんません」と詫びる浅田さん一行の怪我をいたわるどころか、怪訝な顔をした上、後で追い討ちをかけるように更なる叱責を浴びせた、とか。第2のエピソード、これは東北が舞台です。東北のある温泉に、ふと立ち寄ろうと思い立ち、新幹線から温泉の観光協会に電話をかけて宿の手配を頼む。電話に応対に出た男性は、「ちょっと待ってくださいよ」と答え、電話をほっぽらかしたまましばらく談笑らしき音声。しばらくして、やっと「何名様ですか」と訊くので、一人と告げると「そりゃダメです、話にもなりません」と言う台詞と共に一方的に電話が切れた。(=相手が電話を切った)

 

私も2004年から秋田の国際教養大学(AIU)で集中講義を行うようになり、秋田を筆頭に東北とも随分ご縁が深くなりました。授業を持っている期間は、秋田の温泉や名所にもなるべく時間を見つけて行くようにしていますし、時には岩手や青森、山形や宮城にも足をのばします。そんな機会に、浅田さんの今回の経験談ほど酷くはないけれど、結構ビックリするような応対を受けたことが何度かありました。

例えば、秋田市内の大きな映画館からの帰り道、エレベーターに乗り合わせた子供連れの男性に出口への道順を尋ねたところ、完全に黙殺されてしまったこと。有名な温泉旅館の迎車に乗って、運転手さんに眼前に広がる美しい田沢湖の水深を尋ねると「ここの出身ではないので、知りません」の一言で撃沈され、それでも食い下がって「ご出身は?」と聞くと、すぐ隣の村だった!

この他にも、有名な旅館に五月の連休中宿泊し、「この辺りで今新緑の美しいところはありませんか」と尋ねると、「よく知りません」との返答を頂いたことも!? 先日などはこの同じ旅館に電話して、「来週の土曜日空いているお部屋はありますか?」と尋ねると、「17日ですね?」と、既に過ぎてしまっている土曜日についての返答が来て、度肝を抜かれたことも。 有名な旅館でさえこのような応対をするのですから、時間を大切にしたい旅行者はそれこそ現地の人のサービス精神に期待して行き当たりばったり、というスタイルは避けたほうが無難かもしれませんね。そうやって地元の人の情報で気ままな旅をするのも楽しいはずですが・・。 

このような経験を並べたて、秋田県人は宣伝が下手でサービスに対する意識も低いと結論するのは容易ですが、実はそんな単純な現象ではないのです。というのは一方で、東京やニューヨークなどでは絶対にありえない心からの親切を、利害に関係なく示してくださる秋田の方に会った経験も、また沢山あるのですから。

例えば、私達AIUの教員の畑を完全なボランティアで快く手伝ってくださる伊藤さんを始めとした椿台スーパー農園の方々。私達の作付けに不備があると、こちらが気づかないうちに直しておいてくださいます。他にも、「天然の真鯛だったら興味があるからいつでも持ってきたら下ろしてあげる」と言って、大きな真鯛2匹を本当に無償で刺身にしてくれた上に、鯛の残りでサービスのスープまで作ってくださるスーパー親切なお寿司屋さんもいらっしゃいます。

どうして、こんなにも真逆の性格が同じ土地の人々の中に混在しているのか、不思議でなりません。

 

と、ここまで書いて台北から東京に戻ってきました。

成田空港で入国するまでに、短いエスカレーターがあり、年に4,5回乗る「東京⇔NY便」のときは、乗客は到着時にはエスカレーターなど効率よく団子状態で2列になって乗ります。今度も荷物は多いし、右側の列に押されるように乗ってそのまま立ちました。(エスカレーターは荷物を持って2列の場合、歩いて上るには十分なスペースがないため横の人を引っ掛けてしまう恐れもあり危険です。それに、10秒も掛からないエスカレーターなのだから、慌てることも無いでしょう?)ところが、私の後ろの妙齢(=60代後半?)の男性が無言のままグイグイと激しく押してくるのです。振り返ると、顎で先へ進めと指示してくる。頭にきたので「(英語で)押さないでください、荷物が多くて十分なスペースがありませんから」というと、「(日本語で)チェッ、分かったようなこと言いやがって!」と悪態をついてきました。その後、到着ロビー行きのモノレールに乗るのに、いずれにしても5分は待たされましたから、何のために急いでいたのでしょうね? その男性には、お生憎さまです。

 

このことがあって、今までの自分の思い込みに気がつきました。浅田次郎さんの第2のエピソードは何も東北だから起こったことと考えるべきではない。私は近年東北とご縁が深くなって、「サービス」の面などで時に不満が溜まってきていたので、思わず東北というカテゴリーに限って考えてしまったけれど、これを「コミュニケーション」というレベルに広げてみると、色々な土地で自分と考え方の違う人間の間でこういうミス・コミュニケーションが起こっているのだ、と。

コミュニケーションは、同じ価値観を共有する人間の間では比較的簡単かもしれません。でも、大抵の社会では、自分と違う考え方や要求を持っている人がいるということが分かっていないと、ちぐはぐなコミュニケーションしか出来ませんね。そのような人間関係の経験が豊富か否かで、コミュニケーションのスキルにも差が出てくるのではないか?

秋田のAIUの職員が函館に行って、タクシーの運転手から不愉快な思いをさせられた、という話も聞きました。その女性は「多分その運転手さんは接客ということに慣れていなかったのでしょう」という冷静な意見でした。その見方が正しいのかも知れません。

都会の多様性や便利さに慣れていると、求めた情報は直ぐに与えられると思ってしまいますが、だからといって都会が必ずしも魅力的とはいえません。

田沢湖の水深に無関心だった運転手さんも、新緑情報を与えてくれなかった旅館のフロント係も、外から来る客にはそういう情報に価値があるということを一度は経験された訳ですから、次からはきっと答えてくださることを期待します。

 

いずれにしても、結論として、秋田が私にとって奥深い魅力的な土地であり、またそこに住む人々が好きであることに変わりはありません。

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このページは、Reikoが2009年10月21日 17:06に書いたブログ記事です。

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